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キャリアトピックス

withコロナ時代の
学生の就職活動/新卒採用について

インタビュー記事

 

株式会社ポジティブ・キャリア 
代表取締役   多胡 敦史 氏
多胡敦史の顔写真
 

■新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、学生の就職活動はどう変わりましたか? 2つの大きな変化が起きています。
1つ目の変化は、需給バランスが大きく変わりつつあることです。長らく「売り手市場」が続いていましたが、バブル崩壊やリーマンショック後ほどの低い水準ではないと予想されつつも、ゆるやかに「買い手市場」に移行しつつある状況です。企業業績の低迷により、採用ストップ、もしくは採用数を減らす企業が増えています(5月下旬時点で採用数を減らす企業が26%)。新型コロナウィルスの感染拡大以前の、「超売り手市場」からは確実に変化しています。
ただし、実は東京オリンピック・パラリンピック後から徐々に「買い手市場」に移行すると言われていたので、予見していたその変化が2年くらい前倒しになったというイメージです。
就活生にとっては苦しい時代になってきました。氷河期再来の兆しという専門家もいらっしゃいます。特に、今夏からインターンシップなどがスタートする22年卒採用(現在の大学3年生)においては、確実に採用数を減らす企業が増えるでしょう。いずれにせよ、就職が今までのような学生優位の時代ではなくなってきました。
 
2つ目の変化は、採用/就活スタイルが急速に変わってきたことです。この点では2つの観点があります。
1つ目の観点は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響でオンライン化が進んだ点です。21年卒採用においては、3月以降の感染拡大の影響でいきなりオンライン面接に突入した形になっており、今の時期(8月)でも就職先が決まっていない学生が例年より増えています。一方で、いま始動している22年卒採用は、はじめからオンライン選考を前提としてスタートしていきます。学生側も先輩の苦労を見て、より早く動き準備を始めています。
2つ目の観点は、新型コロナウィルスの感染拡大に関係ない部分での変化で、採用トレンドがONE TO ONEになってきました。数年前までは、マス向けに広告を出稿し、より多くの学生に一斉にアプローチを行ってきましたが、この数年で、個人個人に向けたリクルーティング活動が主流となりつつあります。いわゆる、ダイレクトリクルーティングが活性化しているという点です。
 
■具体的には、どのような取り組みしているのでしょうか?
具体的には、OfferBoxやキミスカ、dodaキャンパスを中心としたダイレクトリクルーティングサービスが主流になりつつあります。他にも、「採用マーケティング」や「採用広報」などのワードが定着し、採用ストーリーを可視化するキャンディデート・エクスペリエンス(CX)の設計、SNSによる情報拡散やリファラル採用、スクラム採用などの動きがトレンドになっています。
今の高校生や大学生にとって、情報収集のメインツールはSNS、特に就活ではインスタグラムとツイッターが多く、コミュニケーションツールは確実にLINEが主です。数年前までの、大規模な広告費を投入した広告宣伝、大規模合説に出展して学生にアピールする採用スタイルから大きく変わってきました。
 
■中途採用よりも、新卒採用のほうが変化が激しいイメージですね。
そうかもしれません。世代が若い新卒マーケットだからこそ、より変化が激しいのでしょうね。
そもそも採用活動とは、新卒中途に限らず、欲しい人材(ターゲット)の生態というか生活・行動様式を理解することが非常に重要だと思います。いわゆるマーケティングです。学生がどういう生活スタイルで、日々どのように行動をして何を大切にしているのか。そこを理解することが非常に重要になっています。
主に1995年から2012年生まれの「Z世代(デジタルネイティブ世代)」については、一層この視点が重要になると思います。
この世代は、当たり前にスマホが生活の一部としてあり、スマホがないと生活できない世代でもあります(今の21歳の学生が、14歳の時にiPhone3Gが発売されました)。だからこそ、採用企業側の視点で物事を考えていては、今の学生を引き付けることはおろか、出会える(エントリー)ことさえもできないのです。
 
■この流れは、やはり新型コロナウィルスの感染拡大が大きいのでしょうか?
もともと想定していたものが、感染拡大によって一気に前倒しされた印象です。特にオンライン化については、2020年の東京オリパラ対応として、各社ともに準備を進めてきた部分がありました。オリパラに掛からないよう6月には選考をすべて終えきる、もしくは最終的なクロージング(内定承諾ステータス)はオンラインにしようと考えていた企業が多かったのですが、そんな中に感染拡大が突然起こってしまったため、想定していた段取りが組めず、ましてや春の集客や選考がままならず、大幅な遅れをとってしまった企業が多い現状です。
 
■今年の採用活動(21卒採用)は、夏以降も継続されるのでしょうか?
採用数を充足できていない企業がたくさんあるので、10月1日の内定式などは例年ほど気にせず、夏~秋採用まで今年はじっくりと採用を続ける企業も増えています。学生にとってみれば、まだまだチャンスがあると言えるのが今年の流れです。なお、大学生よりも短大・専門・高専学校生はより深刻で、まだ就職先が決まっていない学生がかなり多いと聞いています。
 
■今年の採用活動(21卒採用)を継続するのか、スパッと来年の採用活動(22卒採用)に切り替えるのか、企業によっては戦略が異なってきますか?
それは、企業の体力次第だと思います。例えば、航空業界などは今年の採用活動は全てストップしました。旅行・アミューズメント・飲食業界なども多くがストップ、もしくはかなり計画数を減らしました。本業への打撃が大き過ぎる場合は、そもそも採用している余裕がないはずなので、採用活動休止も致し方ないでしょう。ただし、採用できる体力がある企業にとっては、夏~秋採用でまだまだ自社にマッチする学生を採用できる可能性があるので、攻めの採用を継続するのも一考です。
鉄則として、『採用弱者にとっては、不景気になればなるほど採用を加速させた方がよい』と言われています。買い手市場になりつつある現状であれば、これまで採用に苦戦してきた飲食・小売流通・物流・建設業界やサービス業界などは、足元の業績は厳しいけど、あえて採用を加速させることも検討してみてください。ここは経営に直結する慎重な判断が必要にはなりますが、チャンスではあるのでアクセルを踏むのであればどんどん踏んだ方が良いと思います。

 

■説明会や面接は、オンラインが主流となっているのでしょうか? はい。学生側の活動でいえば、21卒採用についてはオンラインとオフラインが半々くらいのイメージですが、来年の22卒採用は、ほぼすべてがオンライン完結型になるかもしれません。個人的には、今冬もしくは来春には、企業と学生が直接会って話し体験できる採用活動が戻ってくることを心から願っています。
 
■オンラインに切り替わる中で、どのような点に注意すべきでしょうか?
今の学生からすると、我々世代よりもオンラインに慣れている世代ではありますが、オフラインに比べると、普段の素が伝わりづらい部分があります。“温度感”や“空気感”が伝わりづらいので、キャラ売りやコミュニケーション力でアピールしていく人にとっては、オフラインだと難しい戦いとなります。ノンバーバル(表情やジェスチャーなど、言語以外でコミュニケーションをとる方法)での差別化がしづらいからです。
オンラインでは、面接官は普段以上に『発言内容』で判断します。
いわゆる、元気があって明朗快活で人懐っこい学生って、これまでのオフライン面接(対面面接)では受かりやすかった傾向があります。一方で、自頭がよくて論理的思考が高いけど、コミュニケーションや表現が苦手なタイプの学生は、従来では受かりづらい側面もありましたが、オンライン面接では評価が高く受かりやすくなっています。まさに逆転現象が起きています。ゆえに学生にとっても、これまでの面接対策に加えて、プラスアルファの対策が必要ですよね。
 
■となると、企業側も見極める軸を変えるべきなのでしょうか?
見極めの軸を変えることも必要でしょうが、接触頻度を上げることがひとつの解決策になり得ます。
例えば、インターンシップや説明会~内定までの間に、個別面談や座談会・カフェ・ランチ会などを細かく入れて、選考以外のカジュアルスタイルでの接触も組み込むことで、様々な角度での見極めが進みやすくなります。これができるのが、オンラインのメリットです。リアル(オフライン)では時間や場所の制限があり労力がかかりますが、オンラインだと頻度多く刻みやすくなります。
頻度を高めることで見極めにも繋がりますし、学生側の自社への感情移入の高まりにも繋がるので、自社への志望度向上も望めます。
リアルのオンライン化も大事ですが、「オンラインだからこそできること」を企業側が積極的にやっていかないといけない時代ですね。
さらには、地方の学生にとってエリア格差がなくなった点が、大きな進展です。オンラインだといつでも面接できるので、そういう意味では首都圏近郊学生の地理的なアドバンテージがなくなってきました。
逆に、地方の企業が東京や大阪の学生にアプローチしやすくなったりと、いろいろな変化が起きてもいます。
 
■大規模な合同説明会がなくなった影響は大きいのではないでしょうか?
確かに、合同説明会がなくなって集客に苦労はしていると思います。ただ、オンライン合同説明会が始まるなど、ある程度の集客数の担保はできるようにはなってきてはいますが、やはり足りない部分はダイレクトリクルーティングで補充していくことが必要です。
学生側視点に立つと、オンラインだとなおさら、知名度の低い企業に触れる機会が圧倒的に減ります。これまでのように、合同説明会でたまたま隣のブースの企業の話を聞いたら興味を持ち、エントリーしてみた、という偶発性が起こりにくくなっています。いわゆる大企業やメガベンチャーなどの、名前を知られている企業がより優位になってしまいます。
だからこそ、企業から学生に直接アプローチする活動が必要で、各社SNSなどあの手この手でいろいろと工夫して採用活動を行っています。これまでの採用の仕方からは、確実に変えていかないといけない訳です。
 
■ちなみに、この傾向は日本特有でしょうか?海外は違いますか?
海外事情に精通しているとは言えませんが、そもそも新卒一括採用を行っているのは日本をはじめ少数の国程度で、大半の国は通年採用の文化です。
この一括採用を変えようという動きも出てきていますが、正直なところ、一気に変えることは相当難しいと思っています。国としてグローバルの競争力をつけるため、間違いなく変えないといけない課題であるとは思いますが、そもそもの商習慣やビジネスモデル自体が毎年4月の新卒一斉入社に合わせて動いているので、一気に変えるとなると相当な労力が必要です。経済もそれで回っているので。ホテル・会場・広告・物流…。
あとは、4月1日に全員入社するという一括採用は、育成面ではある意味メリットがあります。メンバーシップ型雇用を好む日本にとっては、同じ釜の飯を食った同期とのつながりを非常に重要視しています。マナー研修から始め、全員一斉に教育ができることは効率的でもあります。企業側が管理しやすいのです。ですので、一括採用がすぐにはなくなることはあまり現実的でないと考えています。
また別の側面として、超大手企業にとっては通年採用でも問題ないかもしれませんが、中小企業にとっては相当に苦しい状況になってしまいます。
例えると、通年採用は大学受験に近く、一浪二浪も当たり前で、働く人もいればフリーターになる人もいる。留学や仮面浪人進学もある。ようは、自分のやりたいことを求め続けることが許される傾向にあります。それ自体は良いことでもありますが、『我慢してここで頑張ってみよう』とはなりづらくなるので、企業に学生が流れにくくなります。一浪しても二浪してでも、行きたい会社を目指すようになってしまう。そうなると、益々大手志向や魅力のあるベンチャーにしか学生が行かなくなってしまう。
一方で、一括採用は高校受験と近いイメージで、滑り止めも含めて、基本的には第一志望に落ちてもとりあえず4月には学校(会社)に入る。ある程度のタイミングで、ほとんどの人が収まるということです。
個人の意見として、通年採用に反対はありません。ただし、移行するにはまだまだ時間がかかるだろうという予測です。実際コロナ禍においても、一気に通年採用に切り替わることはないとは思いますが、少しずつでも通年採用を導入する企業が増えてきており、変化の兆しは見えつつあるというのが現状でしょうか。
 
■となると、中小企業にとっては、新卒採用はどんどん難しくなっていくのでしょうか?
中小企業が苦戦すると一律ではなく、いま現在苦戦している企業が、今までと同じやり方をやっていては苦しいままだということです。
ただし、例えばSNSを使えば、無名の企業でも世の中に発言権を得ることができる時代になったということも事実です。そう考えると、うまく対策を講じることで、ジャイアントキリングが起こせる時代です。だからこそ、採用スタイルや手法に工夫が必要になり、『採用マーケティング』をしっかりと行わなければならない時代になったと言えます。
どこの企業も苦戦はしているけど、しっかり戦略を立て、早期に様々な取り組みを行っている企業が大きく成果を出し始めています。“勝ち方がある”という事です。
 
この観点では、学生側も同様です。みんなが不幸になる時代ではなく、策を講じて頑張った人が報われる時代と言えます。逆に、努力なければ結果は出ないという当たり前のことです。
大手企業に入社すれば定年まで安泰、という時代ではなくなってきたのと同じで、就活もいい大学に入学すれば安泰という訳ではまったくありません。偏差値の高い大学出身者が、ある程度のエントリーシートを出せば内定が取れる、という時代ではありません。
だからこそ、学生にとっても、キャリアアドバイザーの存在価値が大きい時代であるとも思います。新卒紹介や就活塾などもたくさんできているのは、こういう背景があってのことです。
 
■インターンに熱心な学生も増えていますよね?
インターンも非常に大きな役割を持っていると思います。私自身、インターンには大賛成です。企業/学生双方にとってメリットが大きいと考えています。
学生→就活→社会人というぶつぶつ切り替わるのではなく、この切り替えをいかにシームレスにしていけるかが、実は私個人にとってのライフミッションだと考えているくらいです。
学生が社会に触れ合える機会を増やす。企業側も学生に自社を見てもらう。産業界が教育界に入っていくイメージ。そういう意味でのインターンは、大いに推奨しています。
実際に多くの企業様から弊社に、『インターンをはじめたい(見直したい)けど、どうすればいい?』という相談が、多く寄せられるようになってきました。
 
■学生時代から、はたらくことを意識する事が重要ということですね。
その通りだと思います。3年生の夏からいきなり就活を始めます、ではなく、もっと早くから社会人と接点を持って関わってみるとか、複数社でインターンをやってみるとか、いろいろな観点で社会人とか仕事ということを感じとることが重要だと思います。単に社会で働く人の話を聞くだけでも意味があると思います。まずは知ることからはじめることが本当に大事ですし、いま以上にこういう機会やサービスがどんどん生まれてくることを願っています。
 

【プロフィール】

多胡敦史の顔写真
 

多胡 敦史

株式会社ポジティブ・キャリア
代表取締役

■テンプスタッフ株式会社 [6年] 人財派遣の法人営業。総合商社専任担当、人財紹介事業部立上げなど経験。若手育成プロジェクトの設立や、派遣スタッフの育成プログラムにも関わる。
※現パーソルテンプスタッフ株式会社
■フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 [4年]
リーダーシップ・マネジメント研修の企画営業。様々な顧客の教育体系構築に携わり、組織のビジョン・ミッション策定、チームビルディングに注力。他にマーケティング、講師管理等。
■株式会社ローソン [10年]
新卒・中途社員の採用責任者として様々な実績を残す。全国20万人のアルバイト採用・定着の仕組み開発も担当。
全社の横断型 組織活性プロジェクトの統括リーダーとして、社内コミュニケ活性、表彰制度、全社イベントなど企画・運営。
■株式会社ポジティブ・キャリア
2018年12月設立、代表取締役に就任。
※GCDF-japan資格取得後、現在 国家資格 キャリアコンサルタントとして活動中
https://posica.jp/